2022年度食創会「第27回 安藤百福賞」冨田 勝氏(慶應義塾大学 先端生命科学研究所・所長、環境情報学部・教授)が大賞を受賞

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「食創会 ~新しい食品の創造・開発を奨める会~」(会長:小泉 純一郎、元内閣総理大臣) は、「第27回 安藤百福賞」の受賞者7名を選定しました。表彰式は、2023年3月7日(火)に開催します。

公益財団法人 安藤スポーツ・食文化振興財団 (理事長:安藤 宏基) が主宰する「食創会」は、食科学の振興ならびに新しい食品の創造開発に貢献する独創的な研究者、開発者およびベンチャー起業家を表彰する「安藤百福賞」表彰事業 (後援:文部科学省、農林水産省) を1996年から実施しています。最高賞である「大賞」が選ばれたのは、今回で14回目です。

今年度の「大賞」は、システムバイオロジーの先駆的研究者である冨田 勝氏 (慶應義塾大学 先端生命科学研究所・所長、環境情報学部・教授) に決定しました。

冨田氏は、遺伝子やタンパク質、代謝物、細胞などから構成されるネットワークを生命システムとして捉え、生命現象をデータサイエンスとして理解しようとするシステムバイオロジーの先駆的研究者です。冨田氏は、2001年の開設当初から慶應義塾大学 先端生命科学研究所 (山形県鶴岡市) の所長を務め、先端生命科学研究所が立地する「鶴岡サイエンスパーク」をシステムバイオロジーの世界的拠点へと発展させ、ベンチャー企業の創業や食品産業に貢献する研究者を育成するとともに、先端的研究とその産業化による地域振興にも貢献しました。その他、食科学の領域においても、栄養、おいしさ、機能性に関する遺伝子や代謝物を網羅的に計測・解析する最先端研究を推進し、今後の食科学研究の中心となるデータサイエンスの礎を築きました。冨田氏には、副賞として賞金1,000万円を贈呈します。

「優秀賞」は、酵母による効率的な油脂生産システムを開発した 高久 洋暁氏 (新潟薬科大学) と、酸化ストレスなどに対する生体防御作用の分子メカニズムを解明した山本 雅之氏 (東北大学大学院) に決定しました。両名には、副賞として賞金200万円をそれぞれ贈呈します。

また、大学などの公共研究機関に所属する若手研究者や中小企業の開発者を受賞対象とする「発明発見奨励賞」は、ベージュ脂肪前駆細胞を標識する新規分子マーカーを発見した小栗 靖生氏 (京都大学大学院)、食品成分の高度可視化技術を開発し、食機能・品質評価に応用した田中 充氏 (九州大学大学院)、食品成分ビタミンKのフェロトーシス抑制作用を発見した三島 英換 氏 (東北大学大学院)、高品質の冷凍刺身の開発により三陸地域を活性化した八木 健一郎氏 (有限会社三陸とれたて市場) に決定しました。4名には、副賞として賞金100万円を贈呈します。

受賞者と受賞内容の紹介

1.安藤百福賞 大賞 (賞金1,000万円)

冨田 勝 (トミタ マサル) 64 歳 慶應義塾大学 先端生命科学研究所・所長、環境情報学部・教授
受賞テーマ:システムバイオロジーの先駆研究と食品産業への貢献
受賞内容:米国カーネギーメロン大学で最先端のコンピュータ科学と AI を学び、帰国後、慶應義塾大学で IT を駆使したシステムバイオロジーを世界に先駆けて実践。多くの研究成果をあげるとともに研究者の教育・育成にも大きく貢献した。2001 年の開設当初から、慶應義塾大学 先端生命科学研究所 (山形県鶴岡市) の所長を務め、システムバイオロジーの世界的な拠点に発展した「鶴岡サイエンスパーク」において、数多くのベンチャー企業の創業や食品産業に貢献する研究者の育成に尽力した。その成果は、「鶴岡モデル」として国内外でも有名である。その他、システムバイオロジーを食科学、農学、健康科学などの学問分野にも落とし込み、モノづくり (食料生産) の推進に貢献するとともに、栄養、おいしさ、機能性に関する遺伝子や代謝物を網羅的に計測・解析する最先端研究を推進した。今後の食科学研究の中心となるデータサイエンスの礎を築いた業績は高く評価できる。

2.安藤百福賞 優秀賞 (賞金各200万円)

高久 洋暁 (タカク ヒロアキ) 52 歳 新潟薬科大学 応用生命科学部・学部長、教授
受賞テーマ:油脂自給率向上を目指した微生物による地域バイオマスからの日本型油脂発酵生産システムの開発
受賞内容:油脂生産酵母 (Lipomyces starkeyi) を活用した油脂発酵生産研究において、油脂生産性が向上した油脂高蓄積変異株の取得に成功した。酵母の油脂生産制御因子の研究によりパーム代替油脂高蓄積株の創製に成功し、さらに油脂酵母によるオメガ 3 系健康油脂 (EPA) の生産にも成功している。植物と異なり広大な耕作地を必要とせず、油脂生産性が植物 (アブラヤシ) の 2,500 倍である油脂発酵生産システムは、地域バイオマス (食品工場生産残渣など) の有効利用を可能とする。油脂自給率の向上と環境保護に寄与することが期待されるその業績は高く評価できる。

山本 雅之 (ヤマモト マサユキ) 68 歳 東北大学大学院 医学系研究科・教授
受賞テーマ:植物栄養素ファイトケミカルによる抗酸化生体防御作用の分子メカニズム解明
受賞内容:エネルギー源の食物と酸素が内包する毒作用に対する生体防御システムを研究し、酸化ストレスと環境発がん物質のセンサーである KEAP1 と、その指令に応答する転写因子 NRF2 を発見した。この KEAP1-NRF2 制御系が生体防御において中心的役割を果たし、KEAP1-NRF2 制御系の機能障害がさまざまな疾患の源になることを発見、NRF2 活性制御が疾患の予防と治療に有効であることを立証した。さらに、ブロッコリー新芽に含まれる成分スルフォラファンなどの植物栄養素ファイトケミカルが NRF2 を活性化する仕組みを解明するなど食育推進への社会貢献も高く評価できる。

3.安藤百福賞 発明発見奨励賞 (賞金各100万円)

小栗 靖生 (オグリ ヤスオ) 35 歳 京都大学大学院農学研究科・助教
受賞テーマ:ベージュ脂肪前駆細胞を標識する新規分子マーカーの発見と革新的な機能性食品開発への応用
受賞内容:さまざまな環境要因により活性化される誘導型の熱産生脂肪細胞であるベージュ
脂肪細胞を増やし、活性化させることで、代謝改善、肥満防止、2 型糖尿病の予防と改善につながる。一細胞ごとに遺伝子の種類と量を計測することが可能な「一細胞 RNA シーケンス解析」を用いることで、ベージュ脂肪細胞の前駆細胞を標識する新規分子マーカーを発見するとともに、前駆細胞の減少が生活習慣病の発症に関与することを見出した。また、ベージュ脂肪前駆細胞の増殖機構を発見し、生活習慣病の予防と改善に寄与する機能性食品の研究開発への貢献が期待される。

田中 充 (タナカ ミツル) 40 歳 九州大学大学院農学研究院・准教授
受賞テーマ:食品成分の高度可視化技術の開発と食機能・品質評価への応用
受賞内容:食品成分の体内動態把握のために高感度・高選択的な分析系を構築した。この分析系により、低分子ペプチドが、体内吸収された後に血液脳関門を透過し記憶障害の改善作用を示すことを可視化した。また、味やにおいに寄与する成分について、液相系と気相系の一斉同時検出を達成する分析系を開発した。網羅的な生体メタボローム解析に展開可能であり、代謝系ネットワーク解明への貢献が期待されるその分析系は、化学感覚を主体として成立する「おいしさ」の理解が深まる可能性が期待される。

三島 英換 (ミシマ エイカン) 41 歳 東北大学大学院医学系研究科・非常勤講師、ヘルムホルツセンターミュンヘン・客員研究員
受賞テーマ:食品成分ビタミン K の新たな作用としてのフェロトーシス抑制作用の発見
受賞内容:食品機能成分であり血液凝固作用が知られるビタミン K に強いフェロトーシス抑
制作用があることを発見した。フェロトーシスとは、脂質酸化依存性細胞死と呼ばれる細胞死の一種で、神経変性疾患などに関与している現象。還元型ビタミンK が抗酸化物質として働き、脂質の酸化を抑えることで細胞死を抑制することを見出し、50 年以上不明であったビタミン K を還元する酵素を同定した。アルツハイマー病をはじめとするフェロトーシス細胞死が関連する病気の予防食として、ビタミン K が活用されることが期待される。

八木 健一郎 (ヤギ ケンイチロウ) 45 歳 有限会社三陸とれたて市場 代表取締役
受賞テーマ:高品質の冷凍刺身「盛るだけお造り・天然旬凍」開発による三陸地域の活性化
受賞内容:流水 3 分で解凍する個食使い切りパッケージの備蓄可能な高品質のお造り「盛る
だけお造り・天然旬凍」を開発した。凍結方法は従来の CAS 技術 (CELLS ALIVE SYSTEM:磁場を発生させて水分子を細かく振動させ、氷核を大きくさせずに冷凍する技術) を、漁獲段階までさかのぼり、各魚種に最適な手当および加工を施し、凍結のタイミングも調整することで、150 種を超える多様な地魚の高品質な商品化を実現した。香港、シンガポール、ドバイに向けた輸出実績も順調に伸ばしており、地域の産業振興や三陸地区の復興支援に貢献している実績は高く評価できる。