2023年度 食創会 「第28回 安藤百福賞」 京都大学 大学院医学研究科・教授 理化学研究所 計算科学研究センター・部門長 奥野 恭史氏が大賞を受賞

PDF (416KB)

「食創会 ~新しい食品の創造・開発を奨める会~」(会長:小泉 純一郎、元内閣総理大臣) は、「第28回 安藤百福賞」の受賞者9名を選定しました。表彰式は、2024年3月12日(火)にホテルニューオータニ (東京都千代田区) で開催します。

公益財団法人 安藤スポーツ・食文化振興財団 (理事長:安藤 宏基) が主宰する「食創会」は、食科学の振興ならびに新しい食品の創造・開発に貢献する独創的な研究者、開発者およびベンチャー起業家を表彰する「安藤百福賞」表彰事業 (後援:文部科学省、農林水産省) を1996年から実施しています。最高賞である「大賞」が選ばれたのは、今回で15回目です。

今年度の「大賞」は、医療・創薬分野におけるデータサイエンス研究の第一人者であり、おいしさと健康を両立する新たな「食」によるウェルビーイングを目指す奥野 恭史氏 (京都大学 大学院医学研究科・教授、理化学研究所 計算科学研究センター・部門長) に決定しました。

奥野氏は、医療や健康に関わるビッグデータや人工知能 (AI)、ならびにスーパーコンピュータ「富岳」を用いたシミュレーション科学の世界的な研究者であり、予測AIの研究では、健康診断結果を基に3年以内の疾病発症率を予測するAIを開発しています。併せて、発症が予測される疾病の個人別の予防方法を提案するAIも開発しました。奥野氏には、副賞として賞金1,000万円を贈呈します。

「優秀賞」は、育種分野において「テーラーメイド変異誘発法」を開発した阿部 知子氏 (理化学研究所)、生物の食行動を支配するペプチドホルモンを研究する児島 将康氏 (久留米大学)、栄養学教育発展と栄養政策推進に貢献し、実践栄養学に関する国際的発信に尽力する武見 ゆかり氏 (女子栄養大学) に決定しました。3名には、副賞として賞金200万円を贈呈します。

若手研究者や中小企業の開発者を対象とした「発明発見奨励賞」は、食物アレルギー問題の解決に寄与するベンチャー企業を起業した加納 颯人氏 (株式会社RelieFood)、食品メタボロミクスと栄養疫学の組み合わせで大豆発酵食品の健康効果を検証したSastia Prama Putri氏 (大阪大学)、油脂を多く含む食品の過食を制御する神経回路と遺伝因子を発見した松村 成暢氏 (大阪公立大学)、「食」に関する感性処理を学際的研究で明らかにした元木 康介氏 (東京大学)、蒟蒻を原料にした新規食品結着素材「NinjaPaste」を開発し「超咀嚼ナッツバー」を商品化した寄玉 昌宏氏 (株式会社Sydecas) に決定しました。5名には、副賞として賞金100万円を贈呈します。

受賞者と受賞内容の紹介

1.安藤百福賞 大賞 (賞金1,000万円)

奥野 恭史 (オクノ ヤスシ) 53歳 京都大学 大学院医学研究科・教授、理化学研究所 計算科学研究センター・部門長
受賞テーマ:AI・データサイエンスによるウェルビーイングの創造
受賞内容:医療や健康に関わるビッグデータや人工知能 (AI) ならびにスーパーコンピュータ「富岳」を用いたシミュレーション科学の世界的な研究者であり、予測AIの研究では、健康診断結果を基として3年以内の疾病発症を予測するAIを開発し、併せて、発症が予想される疾病の個人別の予防方法を提案するAIも開発した。「健康を手にするためにおいしい食事を楽しむ幸福感を犠牲にすることには矛盾がある」との考えのもと、おいしさと健康を両立する新たな「食」によって疾病予防を行うことを目指している。医療、創薬分野で培ってきた最先端技術を食科学に応用することで、ウェルビーイングの創造を目指すその研究は、時代の要請に応えるものとして極めて高く評価できる。

2.安藤百福賞 優秀賞 (賞金各200万円)

阿部 知子 (アベ トモコ) 63歳 理化学研究所 仁科加速器科学研究センター・副センター長
受賞テーマ:テーラーメイド変異誘発法の開発と食品産業への貢献
受賞内容:重イオンビームを用いた新しいピンポイント品種改良法を開発した。生存に影響を与えない低線量ながら変異率が高い条件や、一遺伝子のみを破壊する品種改良に最適な照射条件などを発見し、蓄積したノウハウから生物種や目的ごとに最適条件を選択する「テーラーメイド変異誘発法」を開発した。本技術で開発し、実用化した農作物や微生物は、ヒエ、食用菊、温州ミカン、清酒酵母、ドライイーストなど40種類にのぼる。世界各地で多収性や高品質が望まれる多種多様な農作物に適用可能な品種改良法を開発したその業績は高く評価できる。

児島 将康 (コジマ マサヤス) 65歳 久留米大学 分子生命科学研究所・教授
受賞テーマ:生物の食行動を支配するペプチドホルモンの研究
受賞内容:食欲を刺激するペプチドホルモンである「グレリン」を胃から発見した。グレリンの発見により、胃が単なる消化器官ではなく、空腹時にはグレリンを分泌して食行動に対して重要な役割を持つことを証明した。その後も、グレリンの発見にとどまらず、多くの生物から同様のペプチドホルモンを発見するとともに、その機能を研究し、生物の食欲はペプチドホルモンによって調節されることを明らかにした。食行動を支配するペプチドホルモンの研究進展により、高齢者などの食欲不振対策や、摂食調節による生活習慣病予防に貢献することが期待され、その業績は高く評価できる。

武見 ゆかり (タケミ ユカリ) 65歳 女子栄養大学・教授、副学長
受賞テーマ:日本における栄養学教育の発展と栄養政策への貢献ならびにそれらの国際的発信
受賞内容:日本の栄養学教育に行動科学理論とモデルの導入を進め、介入研究などによってその必要性の検証を行い、日本の栄養学教育の理論構築と普及に尽力した。また日本のフードガイドとして国際的に認知されている食事バランスガイドの策定と普及に多大な貢献を果たすとともに、2000年から開始された国民健康づくり運動「健康日本21」を推進し、これに連動させた食環境づくりに関する研究と実践を強力に推し進めた。日本の栄養学教育を発展させ社会実装を進めるとともに、国の栄養政策推進に貢献し、さらに、日本の栄養学における実践分野の研究と活動に関する国際的な発信に尽力するその業績は高く評価できる。

3.安藤百福賞 発明発見奨励賞 (賞金各100万円)

加納 颯人 (カノウ ハヤト) 18歳 株式会社RelieFood 代表取締役CEO
受賞テーマ:食物アレルギー問題解決に寄与するお菓子ブランドの開発と起業
受賞内容:受賞者の家族が重度の食物アレルギー疾患に罹患していたことをきっかけとして、受賞者が高校1年生の時に、食物アレルギー問題の解決を目指したベンチャー企業である株式会社RelieFoodを起業した。同社は、アレルギーがある人もない人も誰もが「食」を共有できる世界の実現を目指し、人にも環境にも優しいアレルゲンフリー (28品目) とプラントベースを実現したお菓子ブランド「ISSA KITCHEN TOKYO」を立ち上げた。受賞者は現在高校3年生の18歳で、従来のアレルギー対応食品とは一線を画したおいしくてかわいい食品を提供し、信条や病気に関わらず誰もが食体験を共有できる世界を実現しようとするベンチャー・スピリットは表彰に値する。

Sastia Prama Putri (サスティア プラマ プトリ) 41歳 大阪大学 大学院工学研究科・准教授
受賞テーマ:食品メタボロミクスと栄養疫学の組み合わせによる大豆発酵食品の健康効果の検証
受賞内容:メタボロミクスと栄養疫学を掛け合わせる独自のアプローチで、食品の官能特性および機能特性の重要性や食品成分との関連性を解析する研究分野のパイオニアである。研究成果の一例としては、大豆発酵食品の代謝物を分析するとともにプロファイリングを行い、血漿(けっしょう)中のメグルトールとLDLコレステロール濃度低下との間に有意な関連性を見出したことがあげられる。受賞者の研究により、従来の研究では見つからなかった新たな食品成分が発見された。今後、健康増進効果の高い食品の開発に貢献することが期待される。

松村 成暢 (マツムラ シゲノブ) 44歳 大阪公立大学 大学院生活科学研究科・准教授
受賞テーマ:油脂を多く含む食品の過食を制御する神経回路と遺伝因子の発見
受賞内容:油脂を多く含む食品は嗜好性が高く、高カロリーであるため肥満の原因になりやすいが、摂取しても肥満にならない人も多く存在する。受容体蛋白質MC4Rを発現する神経細胞がエネルギー消費を高め食欲の強力な抑制に関与することが知られているが、受賞者は、その神経細胞の中の遺伝子転写補助因子CRTC1が、油脂を多く含む食品を摂取する際の肥満抑制作用に関与していることを発見した。CRTC1の活性化や機能の正常化が可能になれば、高カロリーな食べ物の摂取を抑制することにより肥満予防に寄与する食品の開発につながることが期待される。

元木 康介 (モトキ コウスケ) 35歳 東京大学 大学院経済学研究科・講師
受賞テーマ:食に関する感性処理の学際的研究
受賞内容:主な研究テーマは、「食」に関する情報処理過程、味に関する感覚間協応、および多感覚を用いた健康的な食行動の増進である。「食」に関する情報処理過程の研究では、ヒトが自動的に視線を向ける食品情報や、短時間呈示される食品画像からの栄養情報推定を明らかにした。味に関する感覚間協応の研究では、心理学実験を通じて音や色彩と期待される味との関係を導き出した。多感覚を用いた健康的な食行動の増進に関しては、健康な食べ物の購買意向を増加させる視聴覚要素を特定した。「食」の感性処理を理解することにより、食産業への経済効果や健康増進への活用が期待される。

寄玉 昌宏 (ヨリタマ マサヒロ) 38歳 株式会社Sydecas 代表取締役
受賞テーマ:蒟蒻であたらしい食のカタチをつくるNinjaFoods開発と超咀嚼ナッツバー商品化
受賞内容:蒟蒻由来の新規食品結着素材「NinjaPaste」を使い、次世代フード「NinjaFoods」を開発した。「NinjaPaste」は、通常の蒟蒻を凝固直前の不安定な状態で留めた独自素材で、常温で液状、結着成型後はレトルト耐性を持ち、栄養価は蒟蒻とほぼ同じである。使用時に凝固温度や水分量などをコントロールすることで幅広いテクスチャーの創生が可能となり、同様のスナックバーの3倍程度の咀嚼回数を生む超咀嚼ナッツバーを商品化した。健康志向の高まりの中で、日本の伝統的な食品加工技術を応用した蒟蒻加工品は人気が高く、地域への貢献も期待される。