2020年度 食創会「第25回安藤百福賞」松澤佑次氏(住友病院名誉院長)が大賞を受賞副賞として1,000万円を贈呈

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「食創会 ~新しい食品の創造・開発を奨める会~」(会長:小泉 純一郎、元内閣総理大臣) は、2020年度 食創会「第25回安藤百福賞」の受賞者6名を選定しました。表彰式は、2021年3月9日(火)にホテルニューオータニ (東京都千代田区) で開催します。
「食創会」は、食科学の振興ならびに新しい食品の創造開発に貢献する独創的な研究者、開発者およびベンチャー起業家を表彰する「安藤百福賞」表彰事業 (後援:文部科学省、農林水産省) を実施しており、今年で25回目を迎えます。最高賞である「大賞」が選ばれたのは12回目です。

「大賞」は、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、抗炎症作用を持つ善玉の生理活性物質「アディポネクチン」の発見者であり、メタボリックシンドロームの提唱者である松澤 佑次氏 (住友病院名誉院長) に決定しました。松澤氏には副賞として賞金1,000万円を贈ります。
松澤氏は、皮下脂肪ではなく内臓脂肪が肥満の多くの病態の原因であることを明らかにし、「内臓脂肪型肥満」という病態を世界に先駆けて提唱しました。そして、脂肪細胞の遺伝子解析により、脂肪細胞が「アディポネクチン」などの多彩な生理活性物質 (アディポサイトカイン) を分泌することを実証し、内臓脂肪の蓄積がアディポサイトカインの分泌異常を引き起こすという肥満関連疾患の発症メカニズムを明らかにしました。また、内臓脂肪の蓄積の結果、脂質異常や高血圧、高血糖が生じる状態をメタボリックシンドロームと定義し、その診断基準を策定しました。松澤氏は、国際的に活躍されている肥満研究の第一人者で、その功績は、生活習慣病予防や食生活改善に貢献するものと高く評価されます。

「優秀賞」は、脂肪酸がエネルギー源としてだけではなく、生体内シグナル分子として働くことを発見した木村 郁夫氏 (京都大学大学院) と、科学的根拠に基づく栄養学 (EBN) を提唱した佐々木 敏氏 (東京大学大学院)、糖と酸の両方の性質を持つ難消化性酸性オリゴ糖 (マルトビオン酸) を開発した深見 健氏 (サンエイ糖化株式会社) に決定しました。3名には、副賞として賞金200万円をそれぞれ贈ります。

また、大学などの若手研究者や中小企業の開発者を受賞対象とする「発明発見奨励賞」は、腸管ホルモンのGIP (胃抑制ポリペプチド:Gastric Inhibitory Polypeptide) が脳に作用し、肥満の制御に関与していることを発見した金子 賢太朗氏 (京都大学大学院) と、干し柿「市田柿」の機械乾燥技術を実用化し、長期貯蔵技術を開発した滝沢 潤氏 (長野県農村工業研究所) に決定しました。2名には、副賞として賞金100万円をそれぞれ贈ります。

受賞者と受賞内容の紹介

1.安藤百福賞 大賞 (賞金1,000万円)

松澤 佑次 (マツザワ ユウジ) 79歳
住友病院 名誉院長・最高顧問
受賞テーマ:生活習慣病の成因における内臓脂肪の意義解明とアディポネクチンの発見
受賞内容:肥満による皮下脂肪の蓄積量が疾患を引き起こすのではなく、腹腔内の内臓脂肪の蓄積 (内臓肥満) によって、脂肪細胞機能が病的になり、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、抗炎症作用を持つアディポネクチンなどの善玉の生理活性物質 (アディポサイトカイン) の分泌不全が起きるとともに、炎症惹起アディポサイトカインの分泌が増加することにより、肥満関連疾患が引き起こされることを明らかにした。メタボリックシンドロームの提唱者で、診断基準の策定に寄与し、厚生労働省の特定検診・保健指導制度の開始においても指導的な役割を果たし、食による生活習慣病の改善と健康寿命の延伸に大きく貢献している。

2.安藤百福賞 優秀賞 (賞金各200万円)

木村 郁夫 (キムラ イクオ) 44歳
京都大学大学院 生命科学研究科 教授、東京農工大学大学院 農学研究院 特任教授
受賞テーマ:食・栄養シグナルと脂肪酸受容体の研究
受賞内容:食由来栄養素である脂肪酸がエネルギー源としてだけではなく、血中でホルモン様作用を示す生体シグナル分子としてエネルギー代謝に深く関与する生体応答機構を解明した。脂肪酸が結合する脂肪酸受容体を同定し、食物繊維由来の腸内細菌代謝物である短鎖脂肪酸や、食用油として摂取するリノール酸、α-リノレン酸、EPA (エイコサペンタエン酸) やDHA (ドコサヘキサエン酸) などの多様な脂肪酸による生体における抗肥満作用を証明した。これらの研究は、肥満や糖尿病などの生活習慣病予防に対する食品からのアプローチとして、予防医学や新たな機能性食品の開発につながることが期待される。

佐々木 敏 (ササキ サトシ) 63歳
東京大学大学院 医学系研究科 教授
受賞テーマ:科学的根拠に基づく栄養学の提唱と普及ならびにわが国の栄養疫学研究と食育などへの貢献
受賞内容:日本で初めて科学的根拠に基づく栄養学 (EBN) を提唱し、栄養疫学研究の重要性を説いた。自記式食事歴法質問票 (DHQ) を開発し、日常生活における食品または栄養素の摂取量や食行動を疫学的に測定する方法を確立し、日本における栄養疫学研究の基礎を築いた。これにより、日本人の食習慣・食行動の詳細とその健康影響を数量的に明らかにすることができ、DHQの個別結果は、効率的かつ科学的信頼性を持った食育・食事指導を可能にした。EBNは、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」の基本的な考え方として採用され、栄養士教育に取り入れられているなどの社会貢献も評価できる。

深見 健 (フカミ ケン) 47歳
サンエイ糖化株式会社 素材開発部 部長
受賞テーマ:~骨と腸の健康をおいしくサポート~ 難消化性酸性オリゴ糖 (マルトビオン酸) の開発
受賞内容:ハチミツにマルトビオン酸が微量存在することを発見し、その糖と酸の両方の性質を持つ構造に注目した結果、マルトビオン酸が共存するカルシウムイオンの溶解度を著しく高めるとともに、カルシウムイオンの体内吸収率を向上させ、ヒトに対して骨密度を高める効果があることを発見した。また、マルトビオン酸は体内で難消化性糖質として働き、ヒトにおいて便通改善効果をもたらすことも明らかにした。1つの素材で「骨密度改善」と「便通改善」という2つの効果が期待できる点は、食品摂取量が限られている高齢者には大きなメリットであり、高齢者世代を対象とした新たな機能性食品につながることが期待される。

3.安藤百福賞 発明発見奨励賞 (賞金各100万円)

金子 賢太朗 (カネコ ケンタロウ) 36歳
京都大学大学院 農学研究科 特定助教
受賞テーマ:食品成分による視床下部の食欲調節ホルモン感受性制御機構の発見
受賞内容:消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するインクレチンホルモンのGIPが脳の視床下部に作用し、レプチンの食欲抑制作用と肥満の制御に関連していることを発見した。本発見を契機に、視床下部器官培養系を用いた独自の食欲調節ホルモン作用の解析方法により、高脂肪食摂取時に見られるレプチン感受性障害と肥満の改善効果がある食品成分を立証した。これにより視床下部の機能制御に関与する食品成分の探索が可能となり、食欲の調節による肥満予防をはじめ、意欲向上や認知機能向上に働く機能性食品の開発に貢献することが期待される。

滝沢 潤 (タキザワ ジュン) 38歳
一般社団法人長野県農村工業研究所 農業開発研究部 主任研究員
受賞テーマ:干し柿「市田柿」の機械乾燥技術実用化および長期貯蔵技術の開発
受賞内容:干し柿の機械乾燥技術の実用化により、従来天日乾燥で30~40日要していた乾燥期間を4日半までに短縮した。柿の酵素特性などを解明し、短期間で糖の転化や脱渋促進を行い、従来の品質と遜色ない高品質な干し柿を作ることに成功した。また、包材や保存温度管理などによる冷凍に頼らない長期貯蔵技術を開発し、海外への販路拡大や高品質な干し柿の通年販売なども期待される。機械化による作業効率の向上は、地域雇用の創出や生産者の高齢化にも対応しており、地域ブランドである伝統食品の維持にも貢献する有効な取り組みであると評価できる。