2021年度 食創会「第26回安藤百福賞」濡木 理氏(東京大学大学院・教授)が大賞を受賞 副賞として1,000万円を贈呈

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「食創会 ~新しい食品の創造・開発を奨める会~」(会長:小泉 純一郎、元内閣総理大臣) は、2021年度 食創会「第26回安藤百福賞」の受賞者7名を選定しました。表彰状授与式は、2022年3月8日(火)に開催します。

「食創会」は、食科学の振興ならびに新しい食品の創造開発に貢献する独創的な研究者、開発者およびベンチャー起業家を表彰する「安藤百福賞」表彰事業 (後援:文部科学省、農林水産省) を1996年から実施しており、今年で26回目を迎えます。最高賞である「大賞」が選ばれたのは、今回で13回目です。

今年度の「大賞」は、構造生物学の世界的研究者である濡木 理氏 (東京大学大学院理学系研究科・教授) に決定しました。濡木氏には副賞として賞金1,000万円を贈ります。
濡木氏は、X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡を用いて、生体を構成するタンパク質や核酸など生体高分子の立体構造を解析し分子機構の解明を行う研究者です。これまでに、膜タンパク質「チャネルロドプシン」の立体構造や、ゲノム解析で活用されている活性型CRISPR-Cas9の立体構造の解明に世界で初めて成功しています。さらに、効率的なゲノム編集手法を確立するとともに、ゲノムを切断しないゲノム編集手法の開発にも成功しています。濡木氏の成果は、食科学に関連する感覚受容体などの生体高分子の解析へと発展し、新しい食の創造や食糧問題解決への寄与が期待され、卓越した業績として高く評価されています。

「優秀賞」には、非常に困難といわれていたモチ小麦などの新たな加工特性を持つ小麦を開発した中村 俊樹氏 (農研機構) と、「プラズマ乳酸菌」の発見と実用化を推進し、免疫の機能性表示を可能にした藤原 大介氏 (キリンホールディングス株式会社) が選ばれました。両名には、副賞として賞金200万円をそれぞれ贈ります。

また、大学などの公共研究機関に所属する若手研究者や中小企業の開発者を受賞対象とする「発明発見奨励賞」は、麺の食感を可視化する技術を開発し、食感を支配する機構を発見した小川 剛伸氏 (京都大学大学院)、旨味受容体の新たな測定系を開発し、おいしさ研究に応用展開した戸田 安香氏 (明治大学)、舌と脳において甘味の受容と感じ方が変化する修飾メカニズムを解明した中島 健一朗氏 (生理学研究所) と、空腹時に食べ物の匂いの嗜好性が増強するメカニズムを解明した堀尾 奈央氏 (ハーバード大学) に決定しました。4名には、副賞として賞金100万円をそれぞれ贈ります。

受賞者と受賞内容の紹介

1.安藤百福賞 大賞 (賞金1,000万円)

濡木 理 (ヌレキ オサム) 56歳 東京大学大学院理学系研究科・教授
受賞テーマ:CRISPR-Cas分子機構の構造基盤と食品産業に貢献する新規ゲノム編集ツールの開発
受賞内容:生体を構成するタンパク質や核酸の立体構造を解析する構造生物学の世界的研究者である受賞者は、X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡を用いて、数多くの生体高分子の立体構造解析に成功し、分子機構の解明を進めている。これまでに、膜タンパク質「チャネルロドプシン」やゲノム編集で活用される活性型CRISPR-Cas9の立体構造の解明を世界で初めて行った。さらに、立体構造の解析から得られた知見を基に、効率的なゲノム編集手法を確立するとともに、ゲノムを切断しないゲノム編集手法の開発にも成功した。受賞者の成果は、今後、食科学に関連する感覚チャネルや感覚受容体、ならびに栄養素の移送タンパク質などの立体構造の解析へと発展し、食の創生や世界的規模の食糧問題解決への寄与が期待され、卓越した業績として高く評価できる。

2.安藤百福賞 優秀賞 (賞金各200万円)

中村 俊樹 (ナカムラ トシキ) 63歳 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター 主席研究員
受賞テーマ:革新的食品の創出をめざした小麦の開発
受賞内容:モチ小麦などの新たな加工特性を持つ小麦を開発した。米でんぷんの構成要素であるアミロースを作る合成酵素が機能しなくなるとモチ米ができるが、小麦にはアミロース合成酵素を作る遺伝子が3種類存在するため、自然界でモチ性小麦は通常発生せず、交配によるモチ性小麦の作出も非常に困難であるといわれていた。受賞者の長年にわたる研究と交配によって世界で初めて育成に成功したモチ小麦は、世界中で注目され、新しい食品素材として広く利用されている。その他、甘い小麦や、パンや麺に加工した時に硬化しにくい小麦など、新しい小麦の育成にも成功しており、国内外の小麦の品質に関する研究を先導してきたその業績は高く評価できる。

藤原 大介 (フジワラ ダイスケ) 51歳 キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業部部長
受賞テーマ:免疫の機能性表示を達成した食品素材「プラズマ乳酸菌」の発見と実用化
受賞内容:「プラズマ乳酸菌」の発見と実用化を推進し、免疫の機能性表示を可能にした。ヒトが健康を維持するためには、免疫機能を高く維持することが重要である。受賞者は、ヒトのウイルス感染を防御する免疫系の司令塔であるプラズマサイトイド樹状細胞(pDC) を活性化する乳酸菌 (プラズマ乳酸菌) を発見するとともに、その作用メカニズムを解明し、ウイルス感染症に対する予防効果の検証を行った。その成果を基に機能性表示食品制度での免疫表示を日本で初めて可能とした。無味無臭の加熱菌体でも効果を発揮するプラズマ乳酸菌は、さまざまな形態に加工が可能であり、幅広い分野の食品で活用されている。プラズマ乳酸菌の発見とその実用化は食品による免疫ケア推進に貢献することが期待され、その業績は高く評価できる。

3.安藤百福賞 発明発見奨励賞 (賞金各100万円)

小川 剛伸 (オガワ タケノブ) 37歳 京都大学大学院農学研究科・助教
受賞テーマ:麺の食感を可視化する革新的技術の発明と食感を支配する機構の発見
受賞内容:食感は麺のおいしさを決定する重要な因子であり、麺内部の水分分布やグルテンタンパク質が形成する三次元構造によって左右される。受賞者は麺の含水率分布を計測する技術の開発に成功した。これにより、たとえばパスタの最適なゆで状態
(アルデンテ) における含水率分布の可視化が可能となった。また、麺を透明にする新しい方法を発見し、透明化した麺を蛍光計測することで、麺内部のグルテンの構造を可視化する技術も開発した。麺内部のグルテンの三次元構造の解明や含水率分布の解析など食品の内部構造を解明するこれらの技術は、食品加工技術発展への寄与が期待される。

戸田 安香 (トダ ヤスカ) 38歳 明治大学農学部農芸化学科・特任講師
受賞テーマ:旨味受容体の測定系開発とおいしさ研究への応用展開
受賞内容:発光検出系を用いた味覚受容体の高感度評価系の構築に成功し、従来用いられてきた蛍光検出系の評価系では評価できなかった食品成分の評価を可能とした。また、受賞者は生物の味覚受容体の変異を進化の過程と関連させて考察し、味覚受容体の新たな機能獲得に関する新しい発見を行った。たとえば、甘味受容体を持たない鳥類の一種であるハチドリが旨味受容体の変異により糖を受容するようになったことや、霊長類が進化の過程で、食性の変化に合わせて受容する旨味成分が変化していることなどが挙げられる。今後、ヒトの味覚受容体へ研究を発展させることにより、おいしさの起源が解明される可能性があり、食科学発展への寄与が期待される。

中島 健一朗 (ナカジマ ケンイチロウ) 41歳 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所・准教授
受賞テーマ:末梢および中枢における甘味の受容・修飾メカニズムの解明
受賞内容:ヒト甘味受容体の培養細胞評価系を構築し、糖・甘味料・味覚修飾タンパク質など甘味を感じる物質がどのように受容体に作用し、甘味シグナルが脳に伝達されるかを解明した。また、甘味や甘味のおいしさを選択的に伝える神経細胞が脳幹に存在することを発見した。さらに、空腹時に甘味をよりおいしく感じさせる視床下部の摂食促進神経を起点とした甘味増強神経ネットワークの特定にも成功した。受賞者の一連の研究は、新たな甘味物質の開発、糖の過剰摂取への対策や糖尿病予防に寄与することが期待される。

堀尾 奈央 (ホリオ ナオ) 38歳 ハーバード大学医学部・博士研究員
受賞テーマ:空腹時の食べ物の匂いの嗜好性増強メカニズムの解明
受賞内容:空腹時の食べ物の匂いへの選択的嗜好行動が、脳内の空腹を司る神経回路によって制御されていることを明らかにした。空腹時には、食べ物の匂いに対してより一層魅力を感じ、摂食行動につながることは、誰もが経験することである。空腹で食べ物が必要な体内状態の時に、食べ物の匂いを特異的に好むことにより食べ物を得やすくするシステムが生物に備わっていることを初めて解明した。今後の研究の発展により、特定の匂いで修飾した食欲増進食品や、おいしいダイエット食品開発への寄与が期待される。